両親のどちらかが外国出身のいわゆる「ハーフ」と聞くと、どこか”特別な子”という印象を抱く。
テレビや雑誌では、ハーフタレントやハーフモデルが「ハーフ」という括りに入れられて活躍しているのを目にするし、滝川クリステルやSHELLYのように外国語がペラペラに話せるというイメージを持ってしまう。
こんな風にハーフに対する先入観を抱いている人も少なくないのではないだろうか。
それもそのはず。ほぼ同一民族からなる同質社会の日本では、いまだにハーフは珍しい存在であるし、私たち日本人が「ハーフの気持ち」を理解できていない部分もあるだろう。イメージばかりが先行する「ハーフ」だが、彼らを取り巻く現状というのは、一体どういうものなのだろうか。
そこで今回は、アジアのニュースを取り上げる海外の雑誌『The Diplomat』より、”In Japan, Will Hafu Ever Be Considered Whole?”(日本で、半分のハーフが「完全」として受け入れられる日は来るのか?)という記事を紹介しようと思う。
日本社会で受け入れられる道を探すハーフの家族
いじめ、差別、羨望…同質性の高い日本社会で生きる「ハーフ」の現状 part1
高木ララさん
「スペイン!スペイン!」
高木ララさんと彼女の弟は、毎日朝から晩まで男の子たちにこう言われ続けた。千葉県のサマーキャンプに参加した時のことである。最初の頃はスペインと呼ばれるだけだったが、そのうちに男の子たちに押されたり、叩かれたりされるようになった。ある朝、彼女は自分の服が詰まったリュックサックが外に放り出され、雨でずぶ濡れになってしまっているのを発見した。
「この2週間は、私と弟にとって、人生で最も最悪な時間でした」
そう高木ララさんは振り返る。彼女は当時6歳。スペイン人の父親と日本人の母親の間に生まれ、東京で育った。
「サマーキャンプが終わって、両親が駅まで迎えに来てくれた時は、弟と一緒に一日中泣きました。それ以降、日本人の子どもと遊びたいと全く思わなくなり、長い期間日本語を学ぶ気すら失ってしまったのを今でも覚えています。成長して大人になったら、日本に対する興味も少しずつ沸いてきましたが、それまでは辛かったです。」
2050年までに、日本の人口の40%は65歳以上の高齢者となる。日本人夫婦は子だくさんを望まなくなっており、これが少子高齢化に拍車をかけている。日本はこれまでにない人口減少問題を抱えているのだ。
しかし、こんな現状にあるなか、ある層だけが継続して成長している。
それが、日本人と外国人の国際結婚だ。しかし、世界で最も同質性の高い社会である日本で、国際結婚夫婦やその子どもを、社会の一員として受け入れる準備ができているのだろうか。
高木さんのようなハーフは、今日本で急激に「普通」の存在になろうとしている。厚生労働省発表の最新の統計によると、2012年に誕生した赤ん坊の50人に1人が、両親のどちらかが外国籍のハーフであることがわかった。それに加え、昨年の日本でされた結婚のうち、3.5%は日本人と外国人の結婚であった。1987年に誕生したハーフの子どもは、赤ん坊150人に1人の割合であり、国際結婚率も2.1%ほどであった。このことからも、国際結婚とハーフの子の誕生は少しずつ増えていることがわかる。
海外ではハーフのことを、mixed-race(混血)やbiracial(二人種)という言い方をするが、日本では半分という意味のハーフを使っている。「ハーフ」という言葉は、「日本人の要素が半分」という意味で、日本人要素のみを重要視している言葉だと批判する人も中にはいる。ハーフという呼び方が、日本社会の混血に対する捉え方を反映しているとも言えるが、呼び方に関しては単純に伝わりやすい言い方として広まっただけなのかもしれない。
外国人は入場禁止
いじめ、差別、羨望…同質性の高い日本社会で生きる「ハーフ」の現状 part1
オラフ・カルトハウスさん
千歳科学技術大学で光科学部物質光科学科教授をしているオラフ・カルトハウスは、4人のハーフの子の父親である。大都会の東京から離れた北海道で、のびのびと子育てをしてきた。
1999年、日本人を配偶者に持つ日本在住外国人の友達同士で、ある温泉を訪れた。しかし、この温泉の責任者は「Japanese Only」の張り紙を見せ、彼らの入場を断ったのだ。
その理由は、彼らの見た目にある。それなら、日本で生まれ育ち、日本国籍である自分たちのハーフの子は入れるのかと聞いてみると、温泉の主人は日本人風の見た目の子どもだけ了承し、外国人風の子どもは入浴を拒んだという。
「アジア人の見た目の子どもは中に入っていい。しかし、外国人の見た目の人は断らなければいけない。」これが温泉側の説明である。この事件は、日本に住む多くの”外国人の見た目”の人にショックを与えた。
彼はケン・サザーランド、デイヴィッド・アルドウィンクルらとともに、日本に帰化し人種差別訴訟を起こす。結局、原告が勝利し、この温泉は原告3名へ各100万円の賠償支払いを命じた。この訴訟は当時、国際ニュースのヘッドラインで報道され、日本における外国人差別と、日本での異人種の寛容さが議論されることになった。
しかし、この嫌な経験があったものの、オラフ・カルトハウスは日本を溺愛している。彼の子どもたち4人も、日本で直接的な人種差別にあったことはないという。
「僕の息子は小学3年生の時、”外人”と呼ばれたことが一度だけありましたが、差別されたり、特別扱いされたりすることは一度もありませんでした。娘なんかは髪の色を染めて、わざわざより外国人っぽく見えるようにしているほどです。」
ハーフを取り巻く法律の複雑さ
多くの専門家は、少子化対策として移民の受け入れを検討しているが、ハーバード大学の研究によると日本は韓国と並んで、世界で最も人種的に同一的な国である。このような国では、国民の多くが外国人の流入に否定的だ。
「政府がメディアを規制して誇張を防ぐなんてことはできないが、法務省はもう少し、きちんとした犯罪統計を提示するべきだ。外国人移民が凶悪犯罪や薬物乱用などの増加の原因になっていると誰もが信じているが、これを示す明確な統計はあるのだろうか。」と、Bloombergさんはブログで語っている。
日本で家庭をもった外国人にとって、混血の子どもに関する日本の法律は複雑である。日本のハーフは、子どものうちは2重国籍を持てるが、22歳以上を過ぎると二重国籍は認められない。東京法務局によると、二重国籍者の国と日本との国際的な衝突や軍事行動が起きた場合についての懸念から、現在の法律では二重国籍を認めていないとしている。
22歳以上の二重国籍を認めないという法律は、実は最近作られたものである。1984年に、国籍法が改正されたときに新たに加えられたのだ。
日本は血統主義の国である。市民権は血統によるもので、出生地によるものではない。国際結婚のもとに生まれ、二重市民権を得ている子どもが増えているのにも関わらず、政府は国家統治権を守るためには制限が必要だと考えているらしい。
二重市民権を持つものは、20歳になるまでにどちらの国籍を捨てるかを選ばなくてはならない。なぜ20歳なのかというと、日本の成人は20歳であり、この年になればどちらのパスポートを捨てるべきかを冷静に判断できる大人だと考えているらしい。
日本政府はハーフにこのルールを周知させるため、ポスターやパンフレットなどで国籍の選択を呼びかけている。22歳という期限までにどちらかの国籍を選べなかった場合は、法務省が書面により、国籍の選択をすべきことを催告する。、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。尚、国籍喪失の届出に関しては、期限を過ぎても罰則はない。
驚くことではないが、東京法務局は、「将来の国籍法を思索する立場ではないが、今後国際結婚が増え、多国籍の子どもが増える場合は、政府が多重国籍法を緩める可能性がある」と語っている。しかしながら、帰化するためではなく、多重国籍者が日本国籍を保持するための必要条件に付いて、国民と政府がオープンに話し合う機会をつくるべきだとスポークスマンは認めている。
「日本で育てられているのに、日本人じゃなくなるってどういうことよ?」
高木さんは語る。
「日本人は、自分の国に住んでいる人のこととなると、まるで疎いです。日本の教育システムだって、30年以上前から変わっていません。グローバル化が進むなか、改革が必要な時がきっと来るはずです。日本の教育システムだって、2か国以上の文化をもつ子どもにも適応したものにするべきです。」
高木さんは、他の先進国のような「二重国籍者への国際的なマインドによるアプローチ」を拒絶している日本政府を厳しく批判している。
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