よければ、英語で話しましょうか?
筆者がフランスに来たばかりの話だ。たどたどしいフランス語を話す筆者を見るに見かねて、オランダ人の少女はこう言った。彼女はほんの10歳くらいだったが、オランダ語、英語、フランス語が堪能らしい。「無理してフランス語で話さなくってもいいのよ、私は3ヶ国語できるから」と、子どもに馬鹿にされたようで当時は不愉快だったが、なるほど確かにヨーロッパの人は母国語と英語はできて当たり前という感じである。
EUは域内の市民に対して複数の言語を話すことができるように努めており、とくに母語に加え2つの言語が話せるようになることに力を入れている。多くのEUの財政計画では言語学習や言語の多様性の促進に重点が置かれているそうだ。
それでは、3ヶ国語話せることを推奨されているEUのなかで、最も外国語が得意な国はどこだろうか?そこで今回はユーロニュースより、「EU内における外国語習得度」という記事を紹介する。
EUで最も外国語ができるのは、ルクセンブルグ
EU域内で最もマルチリンガル(多言語話者)が多いのは、ルクセンブルグ。反対に、最も外国語の習得率が低いのはアイルランド、ブルガリア、オーストリア、ハンガリーであることが最新のEUによる調査でわかった。
この調査では、ルクセンブルグの中等教育に属する学生の全てが外国語を2カ国以上学習している。その一方で、最下位のアイルランド、ブルガリア、オーストリア、ハンガリーでは中学生の5分の4が外国語を1ヶ国語のみ学習しているという結果になった。尚、イギリスの調査結果は公表されていない。
調査結果では以下も明らかとなった:
アイルランドでは中学生の89.7%が外国語を学習しているが、これはEU内では最も低い値である。
デンマーク、ギリシャ、スペイン、イタリア、ルクセンブルグ、マルタ、スロベニア、スウェーデンの中学生全て、外国語は最低でも1ヶ国語学習している。
英語が第一外国語にされていないEUの国はベルギーとルクセンブルグのみ。
英語は最も話されている共通語。英語に次いでフランス語、ドイツ語、スペイン語が話されている。
ロシア語はEU言語ではないが、第2外国語として学ばれている人気の言語である。
ルクセンブルグは例外?
ルクセンブルグの公用語は、ルクセンブルグ語、フランス語、ドイツ語である。ルクセンブルグでは、小学校の段階でこれら3つの言語を学校で指導されるが、今回のユーロスタット調査ではフランス語とドイツ語を外国語としてカウントしている。
2011年の調査によると、ほとんどのルクセンブルグ人は3ヶ国語以上話せると回答した。25~64歳の大人の4分の3は、マルチリンガル(多言語話者)であり、22%はバイリンガル(二言語話者)である。
EUで最も外国語が苦手な国は?
2014年の調査によると、ハンガリー、ブルガリア、オーストリア、アイルランドで中等教育を受けている8割以上の学生が、1ヶ国語のみ外国語学習をしている。
EUのほとんどの国では、外国語学習者の59.9%が2ヶ国語以上学習しているので、これに比べていかにハンガリー、ブルガリア、オーストリア、アイルランドが遅れているかがわかる。
ブルガリアでは、インタビュー回答者の61%が「外国語は話せない」と回答。アイルランドでは72.7%、ハンガリーでは63.2%であった。オーストリアは少し高く、5分の1であった。
ヨーロッパで人気の外国語は?
英語が最も人気の言語である。中等教育の97.3%が英語を学習している。
フランス語は英語の次に学習されている言語であり、EU内の33.7%の中学生がフランス語を学習しており、ドイツ語が23.1%、スペイン語が13.1%である。
ロシア語は非EU言語のなかで最も学習されている言語で、元ソビエト連邦であったエストニア、ラトビア、リトアニアでは第2外国語にされている。EU域内では中等教育を受けている50万人がロシア語を学習しており、特にフィンランド、スロバキア、チェコで学習者が増えている。
日本人7割以上が「英語をほとんど話せない」
それでは日本ではどうだろうか。株式会社クロス・マーケティングの「グローバル化と英語に関する実態調査」によると、自身の英語力については、41.6%が「英語は話せない」、30.4%が「(挨拶や食事のオーダーなど)単語を羅列させる程度」と回答。両者を合わせると、全体の7割以上が「英語をほとんど話せない」と答えている。
これらの調査からもわかるように、1ヶ国語のみの外国語学習では最低レベルとされてしまうヨーロッパと日本とでは、レベルが違いすぎる。もちろん、ヨーロッパと「アジアの日本」では、言語習得の難易度、地理的条件や歴史、欧州連合の影響など、安易に比べられない要素がたくさんある。しかし、世界で最も外国語を話す地域の人がどういう感覚で外国語を話しているのか、外国語学習で大切な要素は何かをヨーロッパを手本に学んでみるのもいいのではないだろうか。
文部科学省は2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、小・中・高等学校での英語教育を抜本的に改革すると言っている。しかし、ヨーロッパの感覚から言うと、「英語ができるくらいじゃ足りていない」のかもしれない。日本では英語ができる芸能人がもてはやされるが、ヨーロッパでは英語ができるくらいじゃ、何の自慢にもならないのだ。
英語はできて当たり前。英語と母国語以外には何語ができますか?…というのがヨーロッパのビジネスマンの感覚である。文部科学省が学校での英語教育を見直すなら、この辺の感覚も視野に入れるべきだと思う。
そうでないと、筆者のように欧州の子どもに「英語ならできるわよね」と言われて、ショックを受けてしまうかもしれない。日本だって、「英語ができて当たり前」の時代が、すぐそこまで来ている。
0コメント